大判例

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金沢地方裁判所 昭和28年(行)2号 判決

原告 伊藤定次郎

被告 国

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告が昭和二十一年二月勅令第六八号第一条により昭和二十四年三月為した戦歿軍人の遺族たる原告に恩給法の保障する扶助料を支給せずとの行政処分は憲法第二十九条に違反し無効であるとの確認を求め、その請求の原因として、原告の長男は元義務兵士としてニユーギニヤ方面に出征中、昭和十九年三月二十七日同所で戦歿した。そこで原告は当時の恩給法第三条及び第七十三条により、その死を退職と看做して同年四月原告の恩給権として保障されている扶助料を請求した。ところが昭和二十一年二月勅令第六八号が制定され、その結果、原告に対する扶助料の支給は被告国より拒否された。しかし原告の長男は職業軍人でなく義務兵士であり、戦歿により原告は当然恩給法に基き被告国よりその遺族扶助料の支払を受けるべき既得権である財産権を有していたのである。然るに被告国の政府は非合法的なポツダム勅令に基き、一九四五年十一月二十四日の覚書の趣旨を逸脱し、違法な右勅令第六八号を制定し、これに基き原告の扶助料支給は出来ないとして原告の請求を拒否した。この行政処分は正に憲法第二十九条の精神に反する無償の財産権の剥奪といわねばならないから、この処分の無効確認を求むる為本訴に及ぶと陳述した。

被告は答弁として、原告の請求棄却の判決を求め、原告の長男がその主張の如く戦歿したこと、被告が原告主張の行政処分をなしたことは認めるが、その余の原告の主張は失当であると述べた。

三、理  由

原告の長男が太平洋戦争中、義務兵士としてニユーギニヤ方面に出征し、昭和十九年三月二十七日同所で戦歿したこと、被告が原告主張の行政処分をなしたことは当事者間に争がない。原告はその父として恩給法第三条第七十三条により扶助料を受ける権利を有するのであるが、被告が昭和二十一年勅令第六八号に基いて原告の扶助料の支給拒否の処分をなしたのは、正に憲法第二十九条の精神に反する財産権の無償剥奪であるから無効であると主張するを以て案ずるに、一九四五年十一月二十四日最高司令官代理、副官補陸軍大佐H・WALLENから日本政府に対し「恩給に関する件」の覚書が発せられ、昭和二十一年二月一日勅令第六八号「恩給法の特例に関する件」が昭和二十年勅令第五四二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」に基いて制定され、軍人若しくは準軍人、内閣総理大臣の定める者以外の陸軍、海軍の公務員、若しくは準公務員、又はこれ等の遺族に対する恩給法による扶助料等はこれを給せずと規定された。而して昭和二十年勅令第五四二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」は、旧憲法第八条に基いて発せられた所謂緊急勅令であつて、我が国がポツダム宣言を受諾して同宣言の定める諸条件を誠実に履行すべき義務を負い、且降伏文書に調印して同文書の定める降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる連合国最高司令官の発する命令を履行するに必要な緊急処置として制定されたものであるが、昭和二十年十二月中、貴、衆両院によつて承諾され、その後は旧憲法上法律と同一の効力を有することになつた。旧憲法上の法律はその内容が新憲法の条規に反しない限り、なお法律としての効力を有するのであるが、降伏条項の誠実な実施は降伏文書に基く我国の義務の履行であるから新憲法第九十八条第二項に照し、前記勅令第五四二号は新憲法上も有効であり、又前記覚書の趣旨に従い、昭和二十年勅令第五四二号の委任に基いて制定された前記勅令第六八号も亦憲法上有効である。従つてこの勅令に基き原告に対し為した被告の行政処分は憲法に違反するところなく、有効である。もつとも昭和二十七年四月二十八日平和条約の発効により占領は終了し、わが国は独立国としての主権を回復したが、右効力発生の日から施行された昭和二十七年法律第八一号を以て、前記昭和二十年勅令第五四二号は廃止され、更に同年六月二十日法律第二〇五号「恩給法の特例に関する件の措置に関する法律」第二条により前記勅令第六八号は、昭和二十八年三月三十一日迄法律としての効力を有することになり、次で同年三月二十六日法律第二四号「期限等の定のある法律につき当該期限等を変更するための法律」第一条第一項の五により、該勅令は同年五月三十一日迄その効力を存続する旨規定された。しかしながら行政処分の行われた後、法令の改廃がいかにもあれ行政庁は改廃前の法令に従つて行政処分をしたのであるから、裁判所は処分時の法令によつて行政処分の効力を判断しなければならない。前段認定の如く、被告国の為した行政処分が当時の法令に従い為されたもので憲法に違反するところなき以上、その行政処分はその後の法令の改廃に拘わらず依然有効であるから、その無効なることの確認を求める本訴は理由なきものとして棄却すべく、民事訴訟法第八十九条に則り主文の如く判決する。

(裁判官 観田七郎 斉藤直次郎 柏木賢吉)

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